樹木を考えることは、森を考えることに繋がってきます。現在取り組んでいるテーマのひとつは、白樺のこぶから作られるカップについてです。白樺のこぶで作られるカップは、フィンランドにおいて伝統的な工芸として作られてきましたが、その実態はフィンランドの森の現状やグローバル化によって変わりつつあります。また、そのカップは北方先住民サーミの工芸(duodji)という側面も持っています。Duodjiは私たちが目でみる以上のものだと言われ、実際にシンプルな形をしていても、そこには人々の知恵が宿っています。このように、カップひとつから、樹木について、森について、先住民について、世界のあり方について考えを巡らせることができるのです。
加えて、フィンランドの風景画や工芸に関する美術史的視点からの研究も、上記に挙げた人類学的研究と平行して行なっています。ときにフィンランドの伝統 楽器カンテレを弾いたりもします。
学生へのメッセージ
人類学はふところの広い学問です。学部生だったとき、恩師が私に言った言葉があります。「迷子になったら人類学」。確かに人類学では、私たちが生きていることの全てについて考えることができるはずです。ただ、身体を動かしながら、人や動植物、モノと関わり、実践的、経験的に学び、考えていく点が人類学の特徴でもあります。研究室の教員、学生たちと交わす様々なフィールドの話は、とにかくわくわくします。このような学びに興味があれば、または迷子になってしまったら、文化人類学研究室があなたの居場所のひとつになるかもしれません。
主な業績
- 田中佑実、「フィンランドの死者のカルシッコ―風習の形成、変化、現在―」『北方人文研究』、15号、43-61頁、2022年。
- 田中佑実、「立ち枯れの木が語るナショナル・アイデンティティ:フィンランドのナショナル・ロマンティシズムにおける風景画」、『インターカルチュラル』、18号、102-116頁、2020年。