- HOME
- 2021年度修士論文要旨
泉 友花
標本を「所有」する ー「標本」の所有的関係の人類学ー
【キーワード:標本、所有、翻訳、ANT、モノと人との関係性、石】
本研究は石の標本の「所有」に関する研究である。
序論では研究設問を提示した。個人もしくは組織による標本所有のありようを観察すると、処分することへの抵抗感が一般的にほかのモノの所有よりも強く表れることがわかる。こうした処分への抑制があることから、標本所有は理念的な私的所有概念で説明するだけでは十分ではないと言える。そこで、標本「所有」のありようを問い直し、どのようにして「標本」が作られ、特異な「所有」関係を構築するのかについて研究した。このように、人間が主体的に行うと考えられる「所有」のありようが「標本」というモノの性質によって変容される部分を描き出し、モノの行為主体性を生き生きと描き出すことを目的とする。
第二章ではモノと人との関係性と、所有論に関する先行研究のレビューを行った。
第三章では研究対象である「標本」の定義や、研究フィールド、調査手法について詳細に述べた。
第四章では様々な種類の「標本」の性質の違いを示し、「標本」にとって欠かせない存在である「ラベル」の重要性について述べた。
第五章では様々な文脈の中で「標本」がいかに所有的関係を築いているかを紹介し、「ラベル」の強さという独自の指標を用いて、「標本」の「標本」らしさを強弱のグラデーションで表現できるように試みた。
第六章ではむかわ竜の「発見」の事例を紹介し、「標本」が様々な意味に「翻訳」され広がっていくことを示した。こうしたことから「標本」には「遠くへ運ばれていく力」と「自然環境とつないでいく力」が存在することを描き出した。
第七章では所有の「私的さ」について分析し、私的なモノと社会的なモノが所有されていく様子について考察を行った。
結論である第八章では、「標本」の所有的関係が、「私的所有関係」や「共有関係」と比較してどのような位置づけになるのかを示し、所有的関係がいかにして組み上げられてきたのかについて述べた。