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学位論文

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  2. 2021年度卒業論文要旨

西 希

現代短歌の人類学

   【キーワード:短歌、歌会、批評、権威化、相互作用】

 本稿の目的は、現代における短歌が人々にとってどのような意味を持つのか、どのような場所でいかにして短歌が生み出されるのかについてエスノグラフィーの手法を用いて明らかにすることである。
 本章は7章からなる。序論である第1章では、本稿の研究設問とその背景について述べる。
 第2章では先行研究のレビューを行う。まず短歌結社をハイアラーキーを形成する集団として捉える大野(1999, 2008)、松岡(2008)の研究を紹介する。さらに、「短歌を詠む」とはいかなる行為であるかについて論じた浅野の論考に触れ、本研究の枠組みを提示する。
 第3章では、集団の階層性に着目しつつ、現代における短歌が「結社」「サークル」などといった多様な集団のもとで実践されていること、実践する者を取り巻くメディアも多岐にわたり変化を続けていることを説明する。
 第4章では、筆者が実施した参与観察とインタビュー、そして調査協力者についてまとめる。
 第5章では、短歌集団が開催する歌会の方法に関して、集団ごとの差異や作品の匿名性に着目しながら機能を明らかにする。
 第6章では短歌を創作するという行為について、作者と読者、そして周囲の事物との関係性を論じる。
 最後に第7章にて、フィールドで得た情報を踏まえて考察を行い、研究設問に対する答えを示す。短歌集団にて行われる歌会の進め方には、短歌集団それぞれの方針が内在化されている。指導者の権威化を防ごうとする団体では、匿名で批評を行うことで忖度ない意見の交換が可能になる一方、上下関係が組織化された団体では、作者と作品が紐付けられて、「顔が見える」状態での批評が行われる。さまざまな形での歌会・批評を経て、人々は表現や解釈の方法を向上させる。集団のヒエラルキー構造への着目は、小集団論の分野においても示唆を与えうるものである。
 短歌を作者と読者、そして実在的な素材、抽象的な概念・言語表現、定型などといった複数の主体が絡み合い成立する相互作用であると捉えると、主体同士のネットワークをより緊密にするための有用な手段として、歌会・批評をはじめとする人々のコミュニケーションが機能していると結論づけられる。

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