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- 2020年度卒業論文要旨
今井 彩乃
平取町に息づく「義経伝説」―北海道平取町「義経伝説」伝承の歴史と今
【キーワード:平取町、義経伝説、義経神社、アイヌと和人、接触領域】
本研究では平取町に伝わる「義経伝説」を主な調査対象とし、「義経伝説」伝承の歴史について、日本政府によるアイヌ「同化政策」という社会的背景を念頭に置きつつアイヌ・和人の相互交渉の歴史として再構成することを目的とする。そのうえで、平取がアイヌ社会・和人社会の「接触領域」に当てはまることを示し、現在平取町本町に位置する義経神社はその「接触領域」内で行われた両社会の相互行為の末に生まれた場であるということを示す。以上の歴史的背景を踏まえたうえで、現在の義経神社の在り方について言及し、義経神社の将来についての展望を記している。
本論文は九章構成である。序論となる第一章では研究に至った背景と研究目的を記す。続く第二章では、義経伝説、アイヌ史に関するこれまでの先行研究を概観し、本研究の位置づけを示す。第三章は調査対象地について説明し、第四章では、江戸時代における平取の様相について述べたうえで、先行研究を踏まえながら、アイヌに義経伝説が伝わった経緯について説明する。第五章では明治期の平取に生きたアイヌの酋長、平村ペンリウクの記録を取り上げる。平取を訪れた多くの外国人と交流を持った平村ペンリウクが、どうして義経神社の初代宮守となったのか、その理由を示したうえで、明治期平取に生きたアイヌにとっての「義経伝説」の伝承の意味合いについて考察する。加えて、その当時に生きた和人にとっての「義経伝説」の価値についても言及することで、義経神社はアイヌ社会・和人社会の「接触領域」内で行われた相互行為の末に創出された場であると結論付ける。第六章では、昭和期の平取町の様相について説明し、第七章では本論文を作成するうえで行った調査の概要を示す。第八章では現在の平取町での調査結果を概観する。現在の義経神社を中心に行ったインタビュー調査、参与観察の結果を示している。そして第九章は各章での考察を基に、義経神社成立以後の歴史を振り返りつつ義経神社の今の姿について言及したうえで、これからの義経神社の展望について示している。
本論文では平取町という一地域に注目して、義経伝説伝承の歴史と今について示した。今後の義経伝説についての研究はもちろん、アイヌ・和人両者の主体的行為から歴史を再構成する研究の発展に少しでも貢献できれば幸いである。