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- 2020年度卒業論文要旨
江連 すみれ
「援助」「開発」「発展」の新たな形
ー滝川市の農業技術協力活動とモザンビーク・プロサバンナ事業を例にー
【キーワード:援助、開発、発展、中動態、地域】
本稿は、北海道滝川市とJICAが行う研修員受け入れ事業とモザンビークのプロサバンナ事業の二つの事例を取り挙げ、それらが地域に及ぼす影響を調査するとともに、従来の「援助」「開発」「発展」の枠組みやODA(政府開発援助)の定義を再考し、現地の声を踏まえた「開発」「発展」について考えることを目的としている。
本稿は8章構成である。序章である第1章では、本稿の研究目的とその背景を述べる。
第2章の事前調査では、JICAの技術協力事業やCLAIRのLGOTJ、神戸市のPHD協会の取り組みについて紹介する。また、フィールドである北海道滝川市の現地調査だけではわからなかった、現地の声を聴くことの大切さについて考えるため、中止されたODA・モザンビークのプロサバンナ事業の概要について述べる。
第3章の先行研究のレビューでは、「開発」に関する人類学的研究の流れについて触れ、既存の枠組みで修正できる点を整理する。また、開発がもたらす弊害について、植民地開発の歴史や、様々な国で起こった事例を取り挙げる。さらに、「開発」の分野ではこれまで議論されてこなかった中動態の概念を持ち込み、本研究のオリジナリティを探る。
第4章から第6章にかけては、滝川市で行ったフィールドワークの成果と共に、滝川市が外国人を受け入れてきた歴史や、地域や市民がどのような影響を受けてきたか明らかにしていく。第4章では、実際に滝川市で行われる研修に同行し、モザンビークの農業普及員が農業技術を学ぶ様子について、様々なアクターに注目し、写真を交えながら述べる。第5章では持続可能性への工夫について述べる。第6章では事業が滝川市に与えた影響を考察するため、研修の講師を務めた方、研修員のホームビジットやホームステイを受け入れた家庭、滝川国際交流協会の方々にインタビューを行った。加えて、滝川市の取り組みの形について、「援助」「開発」「発展」という言葉の定義に注目しながら、どのように位置付けられるか中動態の概念を用いて考察していく。
第7章では、プロサバンナ事業に反対してきた農民の生の声から、収奪や暴力などの事業が抱える問題的側面を多面的にみていき、「援助」「開発」の根底にある問題と現地の人々を守る仕組みについて考える。
第8章ではこれまでの事例を通して、現地の声を聴く大切さや、押し付けではなく、本当に現地のためになる「援助」「開発」「発展」に必要な要素について総合的に考察した。その結果、自分たちが当たり前と思い込んでいる「経済成長」「豊かさ」「貧しい」という指標を一度捨て、事業を進める前から現地の人々、コミュニティに深くかかわり、地域によって異なる豊かさの基準とともに、その地域にふさわしい方法を住民と一緒になって考えることが必要であると結論づけた。