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- 2020年度卒業論文要旨
酒井 舞香
「赤と黒」の応援者たちープロサッカーチーム・コンサドーレ札幌への応援が織り成すサポーターの関係性ー
本稿の目的は、地域密着型プロサッカーチームの応援が織り成すサポーター同士の関係性をエスノグラフィーの手法を用いて明らかにすることである。
本稿は8章構成である。序論である第1章では、本稿の研究設問とその背景について述べる。第2章では、これまでのスポーツ応援文化に関する先行研究と日本のスポーツに関わるファン・サポーター研究のレビューを行い、それを踏まえて本研究の枠組みを提示する。そして、本研究において議論を進めるうえで主に示唆を与えてくれる田中(1993)の「連なり」の概念を紹介する。
第3章では、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)と、本研究における調査協力者たちの応援するプロサッカーチーム「北海道コンサドーレ札幌」の歴史やホームスタジアム、観客たちの応援行動に違いをもたらす「ゴール裏」と「それ以外のエリア」に着目しながら観客席内のエリア区分について説明する。
第4章では、筆者が実施したフィールドワークや聞き取り調査、そして調査協力者の概要を述べる。
第5章では、サポーターの観戦・応援のきっかけと動機を探り、また試合当日のスタジアム内での観客たちの観戦・応援の様子と日常的に見られる応援行動を示し、そこからサポーター間の相互作用について分析する。
第6章ではコンサドーレの応援がもたらすサポーターの多様な繋がりの様子を、北海道出身者と道外出身者・在住者の繋がり、既存の社会関係の維持・強化、既存の社会関係の一時的な中断と新たな出会いとに分けて描き出す。
第7章では、スタジアムにおけるサポーターたちの互いに及ぼす影響とサポーター同士の相互に対する認識や思いについて、観客席エリアの区分を越えて明らかにすることを試みる。
最後に第8章では、現場調査の結果を踏まえて考察を行い、研究設問に対する答えを示して本論文を締めくくる。本研究を通して、スポーツチームの応援はスタジアムを直接的繋がりの場として、人々の相互作用を生じさせ、サポーター同士の既存の社会関係や新たな出会いの際の他者との関わり方に様々な変化や影響をもたらすことが分かった。また、スタジアムにおけるサポーターは応援行動を通して、他者との「共同性」を帯びると同時に、他者の影響を受けて様々に変化し得る1人のサポーターとしての「独自性」を内包し、「つかず離れず」の関係を保ちながら、あくまで「連なる」ということが分かった。加えて、サポーターは「地縁・血縁・社縁」といった固定的な「有縁」や、そこから積極的に縁を切り、コンサドーレサポーターという属性のみで結びつく「無縁」への参入、そして通信メディアやTwitter等のSNSの普及に伴い、コンサドーレという共通の関心事に関する情報のみで結びつく「情報縁」で結ばれるということが分かった。したがって、「連なり」の概念だけでは収まりきらない、多様な縁で結びついたサポーターの関係性が明らかになった。本研究は、これまでのサポーター研究に多い定量的調査や、私設応援団といった応援を指揮する限定的なサポーターグループのみに焦点を当てたものと異なり、グループに属さない人々にも目を向け、より多面的にサポーターたちの多様な関係性を調査したものとして、サポーター研究に新たな視点を与えるものである。