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- 2019年度修士論文要旨
陳 亦欣
知床の世界遺産登録のプロセスと先住民族
【キーワード:世界自然遺産知床、アイヌ民族、IUCN技術評価書、文化遺産、主体性】
本稿の目的は2つある。まず「手付かず」の自然と称される知床を再考し、知床の世界遺産登録に関係する資料をまとめ、知床の世界遺産登録のプロセスと先住民族の関係 性を明らかにしていくことである。次に、これらの資料を段階によって分類し、各段階 における重要な出来事を紹介する。
本稿は4章構成である。序章である「はじめに」では、本稿の背景と研究目的を述べる。
第1章では、知床の生態多様性を構成する要因一流氷と地形及び生物を紹介する。
第2章では、知床の先住民族を紹介する。2.1は知床半島における先住民族の遺跡と北海道の歴史を詳しく説明する。2.2は主に知床のアイヌ民族の生活、歴史を概観する。その中で、知床と関係する幕府の「場所請負制度」がアイヌ民族にもたらした悪影響を説明する。その上で、アイヌ民族の苦しめる状況を周知した松浦武四郎という探険家を 紹介し、『知床日誌』といったアイヌ民族の生活に関する著作を説明する。
第3章では、知床の世界遺産登録のプロセスを概観する。そのプロセスを分かりやす く説明するために、4段階を分けて考察する。3.1は第1段階で、知床自然遺産登録の背景を述べる。3.1では、100平方メートル運動といった知床の自然を救う活動から、遺産登録の背景である知床の開発時代と1970年代から1990年代の知床の状況を紹介する。それに加えて、関根郁雄氏( 100平方メートル運動推進部元部長)に対するインタビューを通して、100平方メートル運動と知床の世界遺産登録の関係性を概観する。さらに、知床の世界遺産登録の契機について説明する。3.2は、知床自然遺産登録の準備段階として、知床自然遺産登録に関わる、推薦書、管理計画案、知床世界自然遺産候補地地域連絡機構などの資料を整理して掲載する。3.3の知床自然遺産登録が進める段階を説明し、アイヌ民族が参与したことを示す。3.3では、研究者である小野有五からの取材および論文などを通して、アイヌ民族が知床自然遺産登録参与した過程を明らかにする。本稿ではこの部分に重点が置かれている。3.4では知床自然遺産登録に申請する結果について述べる。この部分ではIUCN技術評価書の原文を載せる。そのなかの「先住民族が参与すべき」という評価の重要性を述べる。
第4章では、アイヌ民族と知床の関係を全体的に説明する。4.1知床の価値の再考で は、アイヌ民族が存在していたことにより、知床が単なる自然遺産だけではなく、文化遺産としての価値があることを検討する。4.2では、アイヌ民族が提案した「先住民族 工。ツーリズム」というような活動を分析して、世界遺産知床でのアイヌ民族の主体性について説明する。「おわりに」の部分では、知床と先住民族との関係性を総覧する。