- HOME
- 2019年度修士論文要旨
笠原 初菜
ネパールの災害エスノグラフィー
本論文は序章と終章を含む7章構成である。災害のエスノグラフィーという位置づけで、2015年の大震災後のネパール・ランタン谷の復興の様子を描こうとした。序章で は公共人類学と災害のエスノグラフィーに関する先行研究をレビューした上で、本論の 位置づけを示す。第1章では、ネパールと過去の地震について、そして2015年のゴルカ地震について説明する。第2章では、調査地であるランタン谷についての概況と、地震による当該地域の被害状況、フィールドワークの概要を説明する。第3章から第5章が、フィールドワークで見聞きしたことを元に作成したエスノグラフィーである。被災当時中心的に活動していたLMRCのメンバーのインタビューで聞くことができた語りを元に構成した。第3章では被災時の混乱から、全員が首都のイエローゴンバに避難し、LMRCを設立させるところまでを描く。第4章では、村人全員が帰村するために LMRCがどんな仕事をしたのか、また帰村してから色々なものが再建されて生活が元通りになるまでにどのようなプロセスを踏んだのか、さらに伝統的に放牧の仕事をしていたゴタローという牛飼いたちが仕事を取り戻していったことについて描く。第5章では、震災を経て村人のほとんどが畑仕事などの自給的な生活をやめてホテル業に移行したほか、家の再建に当たって皆が次々に大きなコンクリート製の家を建て始め、景観の変化や生活様式の変化があったこと、それについて不安を口にする人もいる現状などについて書く。終章ではまず、色々な人たちからの語りを集めてランタンの被災後の歩みを描こうと試みたことについてまとめた上で、結論と今後の課題について述べる。