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学位論文

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  2. 2019年度卒業論文要旨

千葉 美冴子

動物園の「動物」たち

   【キーワード:動物園、動物、マルチスピーシーズ人類学、種、個体】

 動物園は家畜化されていない野生動物を、「野生」性を維持しながら飼育していると いう点で特殊な場である。そのような環境で生きる動物園動物は「野生動物」でも「家畜」でもなく、その両者の中間のような存在だと言えるだろう。本論文は札幌市円山動物園の事例を中心に、動物園における人-動物関係をマルチスビーシーズ人類学の視点から捉えなおし、明らかにすることを目的とする。
 本論文は8章構成である。序論では本研究の目的と背景について記す。第2章では、人一動物関係に関する先行研究を概観し、その上で本研究がどう位置づけられるのかを提示する。第3章では、舞台となる動物園についての概要を示す。第4章では、調査地である円山動物園についての概要、また調査方法と調査協力者を紹介する。第5 章では、実際の円山動物園での事例を取り上げ、動物園の動物が「種」として認識されていることを示す。第6章ではそれとは逆に、飼育員と動物、客と動物の関わりの事例から、動物が「個体」として認識されていることを示す。第7章ではゾウという動物に絞って議論を進め、「種」としてのまなざしと「個体」としてのまなざしが重層的に注がれていることを明らかにする。最後に第8章では、各章での分析を踏まえ、本研究の問いの結論を示し、本論文を締めくくる。
 研究を通して、動物園において人と動物が、大きく分けて「種」や「個体」というレベルで重層的に関係を結んでいることが明らかになった。〈顔〉を持った動物「個体」との相互行為の中で、「種」のレベルと「個体」のレベルを行き来しつつ、「動物」たちはその関係性やあり方を模索している。狩猟や牧畜を行わない多くの現代人にとって、ペット以外の動物と直接関わることができる場所というのは少ない。動物園は動物たちが「種」を超え、「個」と「個」として出会う可能性を秘めた限られた場所だ。それが、現代社会において動物園が存在する一つの意義ではないだろうか。

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