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- 歴史文化論講座は2019年4月をもって文化人類学研究室に生まれ変わりました。詳しくは同研究室ウェブサイトをご覧ください。
http://anthropology.starfree.jp
講座の紹介Introduction
歴史文化論講座の輝き
かつて歴史学者のF・メイトランドは「人類学は歴史学になるか無くなってしまうかの二者択一をすることになるだろう」と述べました。これに対して社会人類学の泰斗E・E・エヴァンズ=プリチャードはこう返しました――「私はそれを受け入れよう。ただしその逆もなり立つとしたときに。つまり、歴史学は人類学になるか無くなってしまうかの二者択一をしなければならない、と。」
このやり取りが示すのは、歴史学も(社会・文化)人類学も違った分野のようでいて、実は不可分だということです。人類学者が出かけていくフィールドは歴史の流れの中にあります。歴史学者が探求するそれぞれの時代には人々の生き生きとした現場があります。歴史学と人類学ふたつのアプローチが合わさってはじめて人が生きる現場を広く深く理解できるようになるのです。
このような研究のあり方を「学際的」といいます。歴史文化論講座が設立の理念とするのはまさにこの学際性です。それは言い換えると既存の分類にとらわれない自由さということです。一見わかりやすい既存の分野分けには、複雑な現実を捉える上で限界もあります。学問分野(ディシプリン)の垣根を超えて問いを探求する自由な精神。そこに学問の初心があるのではないでしょうか。歴史文化論講座は、北海道大学文学部に開かれた、越境する自由な学びと研究の場です。
学際性は時代の要請です。実際の世界は複雑で多層的です。その中で本当に有効な知見を得るためには、一つの分野だけで解きほぐせるものではありません。私たちがいま直面している問題を振り返ってみましょう。氷河の消失や気象の極端化など、地球規模で気象変動が進行しています。それを解明し、解決策を探るには、気象学、生態学などの自然科学だけでなく、産業革命以来の歴史と経済への視点が不可欠です。その気象変動によって今世紀中に日本の河川からシロザケが絶滅するとの予想があります。このシロザケを北海道/アイヌモシリの先住民族アイヌは「カムイチェプ(神の魚)」、「シペ(本当の食べ物)」と呼んで、その生活と文化の中で特別な意味を込めてきました。ここでは文化人類学的な視点が必要になってきます。
そして、私たちの研究室がある古河記念講堂にも多様な歴史と文化が刻まれています:明治時代に起こった足尾鉱毒事件の原因企業・古河財閥による政府への寄付金で1909年に建てられたこの美しい洋館は、最初に東北帝国大学農科大学林学科の研究室となりました。その初代教授・新島善直は道南の黒松内町のブナの天然林を保護するために奔走した人です。後にこの建物からは、植民地支配下の韓国と樺太(サハリン)から、おそらくは人類学の研究のために持ち去られた頭骨が発見されたことも記しておかなければなりません。この建物一つ理解するためにも学際的な知識が必要になるのです。
北大文学部の中でもその学際性において先駆的なこの歴史文化論講座。自然と文化の多様性、歴史の重層性を解き明かすクリエイティブな場として、その輝きがあせることはないでしょう。